柊の庵

小さな庵から花、旅、食、猫のことをつらつら綴る他愛もない日記。

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翠玉

    親同志が決めた相手と嫌々ながらにお見合いをした。
    名古屋で映画を観ただけなので、ほとんど会話らしいものもなかった。
    帰り際、その見合い相手は手土産に、とシュウマイを持たせてくれた。
  翠玉-8   
    そのひと月後に結婚式をあげた。
    さらにその一週間後には、相手の住む東京に行くことになった。
    親戚も知り合いもまったくいない街で、よくわからない人との生活が始まった。
  翠玉-12
    大家さんが営む大衆食堂の2階のアパートは六畳ひと間。
    炊事場とトイレが共同、お風呂は近所の銭湯へ通った。
    ほどなくして、子供を身ごもった。   
  翠玉-9
    出産のときには、当時すでに他界していた自分の母親の代わりに
    田舎から姑がでてきてくれ、そばにいていろいろ手伝ってくれた。
  翠玉-3
    無口な夫が買ってくれた小さなダイヤのついた指輪は赤ん坊のおしめを
    手洗いしていた時にダイヤがはずれて、排水溝へ流してしまった。    
  翠玉-4
    普段はめったに感情をあらわにしない夫が、血相を変えて排水溝の蓋をあけ
    米粒にも満たないようなダイヤを必死にさがしたけれど見つからなかった。   
  翠玉-2
    赤ん坊がよちよち歩きをはじめた頃に、一軒家を買った。
    臆病な夫はローンを組むことを怖がり、それまでに貯めたお金で支払った。
    だから、近所と比べてもとても小さい家だった。
  翠玉-1      
    それでも、台所もないオンボロアパートに比べたら夢のようだった。
    体が弱くて病気がちで、寝込むこともよくあったが
    それからしばらくして、もうひとり子供を授かった。
  翠玉-7
    産後の肥立ちが悪く、同じ病室のお母さんたちよりも長く入院した。
    下の子は喘息もちだったし、よく”ヒキツケ”を起こした。
    おまけに幼稚園に行きたがらなくて、育児ノイローゼのようなものにもなった。 
  翠玉-13
    夫は仕事にかまけて、見て見ぬふりだった。    
    そのうちに自分でもなんでかわからない、いろんな感情が湧き起こって
    大声で泣いたり笑ったり、いろんな声や音までも聞こえるようになった。
  翠玉-5
    夫とその親戚が自分をむりやり病院へ連れて行った。
    それからは、なんども入院と退院、転院を繰り返した。
  翠玉-11      
    病院と薬とは縁が切れなかったけれど、50代の半ばには
    かわいい孫もできて、笑うことが増えてきて
    少しずつ穏やかな生活も送れるようになった。
       翠玉-6
    ある日の明け方。
    薬で朦朧としながらも、トイレに立とうとしたら
    頭のなかで、ぷつんっと大きな音がして、目の前が真っ暗になった。



    母が亡くなって、10年が経った。
    


    母は早朝に寝床で倒れたようで、救急隊員が息を引き取っているのを確認し
    原因がわからないからと、警察官と刑事さん、お医者さんを呼んだ。
    (誰もいないところで息を引き取った場合、事件性も考慮してとのことらしい)

    その時、母が首につけていたエメラルドのペンダントを
    現場検証に駆け付けた刑事さんが私の手のひらにそっとのせてくれた。

    形見らしいものは何もないけれど、父親に内緒で買ったという
    母の誕生石のそれだけは大切にしまってある。




    
   
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NoTitle 

新緑の季節に亡くなられたのですね。そういえば私の父も4月でした。
今の柔らかい新芽の緑と翡翠の緑色。
お母様、鳴兎さんいつも一緒に居られて安心でしょうね。
心に残るお話拝読させていただきました。
  • posted by sakusaku 
  • URL 
  • 2013.04/26 04:44分 
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こんにちは 

人生って山あり谷ありってよく聞くけど、昔は色々とあったんですね。
幸せを感じられた人生だったとしたらとてもすばらしいでしょうね。
  • posted by よしお 
  • URL 
  • 2013.04/26 12:16分 
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おへんじ。 

□sakusakuさま
sakusakuさまのお父様も4月に亡くなられたんですね。
今回の母の話しは、ワタクシが子供のころに母から聞いた話しなんです。
翠玉はエメラルドの和名であって、翡翠(ヒスイ)ではないんです。
石とか花の和名は難しい漢字が多いですもんね。
まぎらわしい言葉を使ってしまってごめんなさいね。

□よしおさま
ほんとに山あり谷ありですね。
母は苦労の連続のような波乱万丈の人生でしたが
少なからずとも、倖せだと思った瞬間があったならばいいのですが。
  • posted by 鳴兎 
  • URL 
  • 2013.04/28 22:05分 
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ほぼご満悦な日々。

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